がんについて①
日本人のがん罹患率
現代においてがんは、すべての人にとって身近な病気です。
日本人のがん罹患率は男性65.5%、女性51.2%、およそ2人に1人が生涯のうちに1度は何らかの癌にかかると言われています。さらに、昭和56年(1981年)より日本人の死因1位はずっとがんが占めています。日本人のがん死亡率は男性26.7%、女性17.9%、およそ4~6人に1人ががんで亡くなっている時代なのです。
がんとは
がんは、医療現場においては悪性腫瘍とも呼ばれています。
人間の体は何十兆個もの膨大な数の細胞からできており、正常な細胞は体や周囲の状態に応じて、増殖したり増殖することを停止したりします。例えば皮膚の細胞は、傷ができたら増殖して傷口を塞ぎますが、傷が治ればそれ以上増殖することはありません。
しかし、異常な細胞では適切な制御ができず増殖しすぎてしまい、体内で細胞の塊ができてしまうことがあります。この塊が腫瘍と呼ばれるものです。このような腫瘍の全てががん(悪性腫瘍)と言われるわけではありません。
無秩序に増殖を繰り返しながら周囲の組織のコラーゲンを溶かして染み出すように広がったり(浸潤)、血液やリンパ管を通じて体内の別の場所に移動して新しい塊を作ったり(転移)して、他の臓器や機能を障害するもののことをがん(悪性腫瘍)といいます。
一方、浸潤や転移で他の臓器や生命に悪影響を与えることなく、比較的ゆっくり増えていく腫瘍は良性腫瘍と呼ばれています。
がんの発生
人体を構成する細胞は分裂を繰り返すことによって絶えず新しく生まれ変わっています。細胞分裂とは遺伝子をコピーして増やしていくことですが、ときにコピーを行う際にエラーが発生し遺伝子に突然変異が生じることがあります。
実は健康な人の体内でも1日約5,000個のコピーエラーが起こっており、遺伝子に突然変異を持った異常細胞が生まれているのです。通常この異常細胞は、体内の免疫細胞の標的となり消滅します。
ところがまれに免疫細胞の攻撃を逃れて生き残る異常細胞があり、それらが異常な分裂・増殖をくり返し、さらに分裂の過程で遺伝子に複数の傷がつくことによりがん化していきます。10~20年という長い時間をかけていずれこの異常細胞は「がん」と呼ばれるようになるのです。
がん化した細胞もそのほとんどは、人間が本来備え持っているアポトーシスと言う働きによって取り除かれています。アポトーシスとは細胞が組織をより良い状態に保つため、細胞自体に組み込まれたプログラムのことで、あらかじめ設定されている期限が来るとその細胞は自ら消滅します。こういった幾重にも及ぶ免疫の働きにより、ほとんどの腫瘍の成長は未然に防がれているのですが、この免疫の壁をかいくぐって腫瘍が成長してしまうと「がん」になります。
遺伝子の傷とは
がん細胞は、正常な細胞の遺伝子に複数の傷がつくことによって発生します。この傷の種類として、アクセルの役割をする遺伝子が踏まれたままになって細胞を増殖させ続ける場合(がん遺伝子の活性化)と、ブレーキの役割となる遺伝子がきかなくなって細胞の増殖を抑制したり遺伝子の傷を修復できなくなったりする場合(がん抑制遺伝子の不活化)があることもわかっています。
がんのできる場所
がんは、全身のあらゆる場所に発生する可能性があります。胃や肺、肝臓などの内臓はもちろん、血液や骨、皮膚や舌などにできる場合もあります。「がん」という名前は付かないものの、脳腫瘍は脳、骨肉腫は骨、白血病や悪性リンパ腫は血液、いずれもがんの一種です。
がんの原因となる活性酸素
人間の体内では常に多くの活性酸素が発生しており、空気中から取り込まれた酸素のうち、約2~3%が活性酸素に変換されると言われています。活性酸素には強い抗菌作用があり、体内に侵入した細菌やウイルスを退治する効果をもっています。
ところがその一方で、遺伝子を損傷することで発がんに関与することが知られています。通常、体内において過剰に産生された活性酸素は、抗酸化酵素や抗酸化物質(リコピン、ビタミンE、ビタミンCなど)によって消去されることでバランスが保たれています。
しかし、喫煙、偏った食生活、運動不足、ストレスなどの生活習慣により、抗酸化物質の不足や抗酸化酵素の働きが低下してしまうと、活性酸素によって細胞が酸化し、遺伝子の損傷が起きやすくなってしまうのです。
がんの危険因子
・喫煙
・食事
・感染
・運動不足
・ストレス
がんのなかには一部遺伝すると言われているものもありますが、現在では遺伝要因よりも生活習慣要因のほうの影響が大きいと考えられています。がんの危険因子の多くは生活習慣にあり、生活習慣の改善ががんの予防になります。
がんの最も危険な因子とされているのが喫煙で、肺がんだけではなく、食道がん、胃がん、大腸がん、子宮頸がんなど、多くのがんのリスクを高めます。さらにタバコの煙は、タバコを吸っている本人だけでなく、周囲にいる人に対してもがんのリスクを増加させ健康被害をもたらします。
食生活においては、塩分のとり過ぎは胃がん、野菜・果物等の繊維質やビタミン類の不足は消化器系のがんや肺がん、辛い物や熱すぎる食べ物・飲み物は食道がんのリスクを高めるとされています。また近年日本で罹患数が増加している大腸がんや乳がんなどは、食生活の欧米化が影響していると言われています。さらに、多量の飲酒では食道がん、肝臓がん、大腸がん、乳がんなどのリスクを高めることがわかっています。
また、がんの中にはウイルスや細菌などの感染によって発症するものがあります。肝炎ウイルスによる肝臓がん、ピロリ菌による胃がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸がんなどが代表的です。このような感染によるがんは他のがんと違い、除菌治療やワクチンなどでリスクを減らせる可能性があります。