がんについて③
目次
AYA世代とは
AYA世代とは、Adolescent and Young Adult(思春期・若年成人)の頭文字をとったもので、主に思春期(15歳~)から30歳代までの世代の患者さんのことを指しています。
AYA世代は、15歳から39歳と対象が幅広く年代によって状況が異なることから、15~19歳をA世代、20歳代以降をYA世代として分けることもあります。
AYA世代のがんの特徴
日本では、毎年約2万人のAYA世代が、がんを発症すると推定されています。AYA世代でがんを発症する人は、がんを発症する人全体からみるとわずか2%程度です。
年代別にみると、15~19歳が約900人、20歳代は約4,200人、30歳代は約16,300人(2017年)となっています。
AYA世代には子どもから大人への移行期が含まれるため、小児期(~14歳)で発症することが多いがんと成人で発症することが多いがんの両方が存在します。そのため、AYA世代に多いがんの種類は、年代によって違いがあります。
15~19歳では、小児期と同じで白血病、胚細胞腫瘍・性腺腫瘍、リンパ腫、脳腫瘍、骨腫瘍などです。
20~29歳では、胚細胞腫瘍・性腺腫瘍、甲状腺がんが多くなります。
30~39歳では、大腸がん、女性の乳がん・子宮頸がん、など成人に多いがんが増加します。
AYA世代のがんはまれな病気であるため、診断がつくまでに時間がかかったり、診断を受けてからも専門の臨床医による治療が開始されるまでに時間がかかってしまうことがあります。
AYA世代のライフステージ
AYA世代は患者さん自身も中学生から高校生、大学生、社会人、さらには子育て世代へとライフステージが大きく変化する年代です。在学中だったり、受験を控えていたり、就職活動中の方、仕事をスタートさせたり家族ができたりしたタイミングで病気になってしまう方もいるでしょう。患者さん一人ひとりのおかれた状況とニーズに合わせた治療と支援が必要となってきます。
妊孕性(にんようせい)について
妊孕性とは、「妊娠するための力」のことをいいます。妊娠するためには女性では卵巣と子宮、男性では精巣が重要な役割を果たしています。
これら直接妊娠に関わる臓器にがんができた場合だけでなく、妊娠とは一見関係のないような臓器にがんができた場合でも、治療の影響によって妊孕性が弱まったり失われたりすることがあります。がんと診断されたあとでも、妊孕性を保ったまま行える治療方法を選択できる場合や、卵子や精子・受精卵などを治療開始前に凍結保存できる可能性があります。将来的に子どもを持つことを望まれている方は、すぐに諦めてしまわずまずは主治医に相談してみてください。
がん治療と仕事の両立
がんの治療のため、仕事を休まなければいけない場面やセーブしなければいけない期間が出てくるかもしれません。休職は法律で定められている制度ではありませんので、休職を採用するかどうか、また休職の内容(休職事由や賃金の有無、休職期間の長さなど)は会社の裁量で決めることができ、通常は就業規則により運用されています。会社によっては独自の休職制度を定めている場合もありますので、まずは就業規則を確認してみましょう。
仕事の内容や強度、病気の症状の出方や治療方法・起こりうる副反応は人それぞれですので、休職に必要な期間はと一概には言えません。今後の治療計画の見通しも含め、主治医に相談し意見を聞くとよいでしょう。ただし、医師には「復職できますか?」「残業できますか?」など漠然とした質問ではなく、「重いものを持って大丈夫でしょうか?」「長時間パソコン作業をしてもいいですか?」などできるだけ具体的な質問をするとよいでしょう。
治療のために長期間休んだあとは、想像以上に足腰が弱っていたり、体力が落ちていたりしますし、仕事に復帰した後は勤務中だけでなく通勤にも体力を使います。仕事に必要な体力が十分回復しているかどうか確認するためにも、可能であれば会社と相談して短時間の勤務から開始したり、通勤のリハーサルをすると良いでしょう。
利用できる制度
がん治療とご自身の生活を両立させるため、役立つ制度があります。
国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度
失業や収入の減少などにより国民年金保険料を納めることが経済的に難しいときは、「国民年金保険料免除・納付猶予制度」の手続きを行うとよいでしょう。手続きをすることにより、国民年金保険料の免除や納付猶予の対象となる場合があります。
高額療養費制度
所得に応じて、一定限度額以上の医療費が免除される制度があります。医療機関や薬局の窓口で支払った金額が同じ月(月の初めから終わりまで)で一定限度額(自己負担額)を超えた場合に、その超えた金額が払い戻されます。払い戻される金額は、年齢や所得によって決まります。
医療費控除
確定申告を行って医療費(交通費や装具などを含む)を申告すれば、所得控除を受けることができます。
傷病手当金制度
健康保険に加入している場合は、傷病手当金制度が使えます。連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった場合、4日目から収入に応じて一定の額が最長1年6カ月まで支給されます。国民健康保険の場合も、加入している国民健康保険組合や自治体によっては傷病手当金制度がある場合や、高額療養費の貸付制度や受任払い制度などが利用できる場合があります。
どのような制度を活用できるのか、またどのような手続きをすればいいのかを知るために、各種相談窓口を積極的に活用しましょう。かかっている病院のソーシャルワーカーや、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターに相談するのがおすすめです。
各種制度を利用するには申請が必要で、なおかつ手続きは複雑で時間がかかることが考えられます。心身の負担とならないよう、自分だけですべて解決しようとはせず、家族や身の周りの人の助けを求めていくことを忘れないでください。
抗がん剤治療後の注意点
化学療法を行うと、がん細胞だけでなく身体の免疫機能を担っている細胞もダメージを受けるため、抵抗力が低下し感染症を起こしやすくなったり、感染した後に重症化しやすくなったりしてしまいます。一般的に抗がん剤治療開始後1週間程度で免疫力が下がり始め、10日~2週間後がもっとも免疫力が低下している期間となります。この期間は、常在菌と呼ばれ普段から人間の身体に存在しており、健康な時には特に影響を与えない菌による感染(日和見感染)にも注意が必要となります。抵抗力が落ちている期間はなるべく外出を控え、毎日体温を測るなど体調管理をしっかり行いましょう。
感染予防のために
手指衛生(手洗い)は感染予防対策の中で最も重要です。アルコールに過敏な方やアレルギーのある方は注意が必要ですが、そうでない方には普段からアルコールを含有する手指消毒剤を持ち歩くこともおすすめです。
手指衛生が必要なタイミングは、
・外出から帰宅した後
・トイレの後
・調理の前、食事の前
・ペットなどの動物に触れた後、世話の後
・鼻をかんだり手で咳・くしゃみを覆った後
・目・鼻・口などの粘膜を触る前後
・掃除の後、ゴミやゴミ箱を触った後
・たくさんの人が触る場所に触れた後(電車のつり革、手すりなど)
などです。
その他に感染予防として
・お風呂やシャワーには、できるだけ毎日入り全身の清潔を保ちましょう。身体を洗う時はゴシゴシこすらず、泡立てた石鹸でやさしく洗います。皮膚の乾燥やかゆみがある時は保湿をしっかり行い、掻き傷ができないようにしましょう。不特定多数の人が利用する温泉や銭湯などの利用は主治医に相談してからにしましょう。
・男性の髭剃りは電動のものを使用し、皮膚を傷つけないようにしましょう。
・人の口の中には普段からたくさんの細菌が存在していますが、抵抗力が落ちている時は口の中で増えた菌が喉を通って肺まで進入し肺炎になったり、虫歯が悪化して血流に乗った細菌が全身に広がってしまったりする可能性があります。こまめに歯磨きやうがいを行い、お口の中を清潔に保ちましょう。歯ブラシは柔らかめのものを使用し、口の中を傷付けないようにしましょう。
・水分をこまめに摂取し、トイレを我慢しないようにしましょう。水分不足や長時間尿を我慢することは膀胱炎の原因となり、悪化すると腎盂腎炎に移行する可能性もあります。
・排便後はトイレットペーパーで強く拭かず、弱めのウォシュレットを使用しましょう。また、食生活の改善や必要であれば下剤や整腸剤を使用し、便秘や下痢にならないようにコントロールしましょう。肛門は粘膜なので傷ができると感染を起こしやすくなります。
・ほこりには病原体が含まれます。ほこりが舞うような作業(掃除やガーデニングなど)をする際にはマスクを着用し、作業後にはしっかりと手を洗いましょう。特にガーデニングや農作業などの土いじりをするときは、ゴム手袋を着用のうえ怪我には十分注意し、手指に既に傷がある時は作業を控えてください。土などの環境中には破傷風菌が常在しており、感染すると重症化や死亡に至る可能性があります。
・外出時には、人ごみをなるべく避け、マスクを着用し、こまめな手洗いやうがいを心がけましょう。風邪やその他感染症のある方との接触はさけましょう
・処方されたお薬は用法容量を守って正しく飲み、自己判断で減量したり中断したりしないようにしましょう。お薬はコップ一杯程度の白湯または水で飲むことを守ってください。牛乳やジュースなどは薬の成分と反応して効果を弱めたり、副作用が出やすくなる場合があります。
食事について
化学療法中で食欲が低下しているときは、無理せず食べたいもの・食べられるものを少しでも食べましょう。ただし、水分だけはしっかりと摂るようにしましょう。また、特に抵抗力が落ちている期間は、生もの(生の野菜、刺身、ユッケやレアのステーキ、生卵や半熟卵、生クリームなど)や発酵食品(納豆、チーズなど)を摂取することは避けた方が無難です。おせんべいなどの固い食べ物も口の中を傷付ける恐れがあるため注意しましょう。
食欲不振時に好まれる料理
酢っぱい物(お寿司、酢の物)、ソース味の物(焼きそば、お好み焼き)、味がしっかりとした物(カレー、ラーメン)、薄味の物(茶碗蒸し、豆腐)、麺類(うどん、素麺)、パン類(サンドイッチ、ピザ)、フルーツなど。
最近の研究では、アミノ酸の一種であるメチオニンががん細胞の増殖に関わっていることが分かりました。本来であれば、体のために必要な必須アミノ酸でありながら、がんになるとがん細胞への栄養を絶つためにメチオニンの摂取制限が望まれます。
ストレスはがん治療の大敵
がんの治療を行いながら、日常生活や社会生活を送っていくのは大変なことでしょう。治療の副作用で思うように体が動かないこともあるでしょうし、イライラしたり、悲観的になってしまうこともあるかもしれません。
気にしないと言うのは無理な話でしょうが、ストレスはがんの重要な原因とされており、活性酸素を増やして遺伝子損傷の発生率を上げたり、免疫力を低下させたりします。せっかくつらいがんの治療に耐えているのに、ストレスを溜めてしまっては治療への影響や再発防止という点からみてもあまり良い事ではありません。
健康な人でもストレスを完全になくすことは難しいですが、日々の工夫や心がけで溜めないようにすることは可能です。規則正しい生活や適度な運動、深呼吸をしたり、たくさん笑ったり、趣味を楽しんだり。自分に合った方法で適度にストレスを発散して下さい。また、周囲の人に体調の変化を理解してもらい、つらいときはサポートしてもらいましょう。一人で頑張り過ぎないようにしていくことも大切です。